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フランスにおける医師過疎・過剰地域偏在問題



フランスにおける医師過疎・過剰地域偏在問題

2007年10月末日、先1ヶ月間に渡り全国で展開されたインターン生によるストライキ、デモが、インターン代表団体とロズリンヌ・バシュロー保健大臣との円卓合意をもって終結した。ストの様子は、1ヶ月間に渡り、大々的にマスコミに取り上げられ、どこのTVの画面も、まず献血をした後に、献血室からストライキ行進に繰り出して行く、さながら若き白衣の闘士を映し出していた。後ろには、「我らの血をかけて救おう、医師の自由。」と書いた旗がひるがえっていた。

事の始まりは、サルコジー大統領による2008年度医療政策発表に発端する。
大統領選中から、国民の好まない政策(自己負担増、医師の新規開業場所選択の制限等)を隠さず公約とし、それで選ばれた彼である。就任後に、「改革を望んでいる国民に私は選ばれたのだから、改革はしません、とは絶対に言わない。」と、次々に医療政策を発表した。特に、医療費の一定額までは(年間50ユーロ上限)、公的保険免責とし、患者が自己負担するもの。但し、これによって得られる財源は、やはり選挙公約であった@終末期医療制度、ホスピス床と、Aアルツハイマー疾患、B障害者を含める介護医療制度にあてるとした。

そして、次なる改革法案として、医師過疎・過剰地域格差問題是正の為の、今後、新規開業医で、医師過剰地域に行く場合は、非保険医となる、と言う厳しいものであった。9月24日に来年度社会保障財政法案が議会に提出されると、ただちに、医師インターンたちが反旗をひるがえした。「個人の職業・場所選択の自由」と、「皆国民健康保険制度の公平性」に違反する法案であると。

全国病院インターン労組(ISNIH)、全国チーフ・レジデント労組(ISNCCA),全国ジェネラリスト青年部(SNJMG)は、全面ストを呼びかけた。
フランス医師会も、オープンに運動支持を表明した。

政府もどうしてここまで強硬な政策を発表したのか背景を説明すると、「万策尽きて、やむを得ず。」と言った所ではなかろうか。

フランスの医師数は、団塊世代の退職があるとは言え、まだOECDの統計によっても、どの統計によっても、対人口比十分な数が確保されている。1(日本の医師数の方が、遥かに低い。)しかし、無医村や医師密集都市などの地域格差問題がある。
これに対しては、国・自治体・疾病金庫による、開業インセンティブ政策が多く進められた。医師過疎地での、開業費用自治体負担、所得税・収益税2年間免除、社会保障負担軽減・免除、インターン住宅手当・奨学金、特別手当等、様々な優遇政策がなされた。が、人口の高齢化により思う結果は得られない。(これらのインセンティブ政策の詳細内容は、また別の機会にご報告したい。)

正確な医師数すら、どこも把握できていないと言う、テクニカルな問題もあった。フランスの医師数を知るための統計が、幾つか存在する。医師会、疾病金庫、保健省、ADELI(医師は、開業認可都道府県保健所に届出を提出する義務があり、ここが管理する台帳)、ONDPS(全国保健職従事者観測所)が発表する各統計間、どれひとつ同じ数値のものがない。現役の医師数をもとに、医学部進級学生数の定員が、毎年、公定されていた国としては、不思議な話でもあるが。
政府は、2007年医療者人口統計ハーモナイゼーション特別委員会を設定して、新たな定義を決め、カウントし直したのも頷ける所以である。

10月31日の円卓合意で、政府は、保険医資格剥奪案を廃案。各アクター(医師会、医師労組、医学部、インターン代表)協議により、11月15日より開始し、2008年1月までに解決策を提案させる事となった。早速、パリ大学講堂で、医学部長が、有力な可能性を学生に向け演説を行った。

国内では、マスコミ等で、日本の医療を糾弾する論調を見る。
しかし、果たして、日本のインターンによる、街頭ストライキ・デモ行進を見た国民はいるのだろうか。

青い鳥は、日本(の自治医大)にいるのかもしれない。

1対人口10万人比: 320人