フランス社会保障制度


フランスの社会保障金庫は主にその加入者の拠出金により得られる。 社会保障金庫は加入者の職業形態により大きく分けて、被用者一般金庫、自由・自営者金庫、農協金庫、その他鉄同職員金庫などに別れる。現在のフランス公的医療保険(一般制度)の医療費の償還率は、医師の診察料の70%、看護婦・リハビリ技師・矯正士による治療費の60%、薬剤では100,65,35,0%となっている。また採血・画像診断等の臨床検査は60%、眼鏡レンズは65%、歯科治療に関しては一般的な治療が70%、義歯・セラミック・冠歯治療に関しては患者の加入している疾病金庫へ治療事前申請を行い、認可を受ける必要がある。入院医療費用に関しては基本的には80%と言われているが、長期入院および疾患による自己負担免責措置が非常に多くなっている。これらは全てセクター1の保険協定医により処方され、協定医療機関を利用した場合の償還率で、混合診療を行うセクター2の可超過報酬協定医の場合、保険協定料金を超過した分は自己負担となる。セクター3という非保険協定医の場合は、公的保険償還は皆無に等しい。

フランスの公的保険機関構造の大きな特徴として、労使協調管理というとてもユニークな体制原理をあげねばならない。この理由は歴史的に、フランスの社会保障制度が労働者同盟のために創られたものであることに発端を見る。社会保険のその原始的なものは、実に既に17世紀初頭に鉱夫のために生まれ、さらに産業革命の後には、各労働者別の制度が結成された。階級社会の中にあって、労働者とその雇用主からの拠出金によって財政基盤をつくり、有事の際には、貧しき者も十分な助けを受ける事を保障とする、この相互扶助の精神は、21世紀の今も受け継がれている。被用者を代表するフランス全国主要労組とMEDEF(日本の経団連にあたる。)を中心とする雇用主側両者がお互いの利益を守るべく、その拠出金の使われ方を管理する。これは労働者の給与と経営者から引かれる掛け金によって成る社会保障事業財政は、政府に全てを任せるのは危険であり、労働者組合代表半数と経営者側代表半数からなる労使代表会に財政監督を委任するべきであると言う論理のもと国民の代表である各組合機関に参加させる事となったからである。(根拠法:社会保障法1967年8月21日法)
政府と医療機関だけにその金庫運営を任せるのではなく、雇・被用者が政治的に大きく関与するその姿勢は大変民主的であるともいえよう。しかし問題点は、時の内閣政党と合わない労組あるいは経営者代表が、常にこの金庫運営の構成員の中にいるため、フランスの医療機関によるストが多い理由も決してこれと無関係ではない点にある。(野党寄りの医療系労組が反政策色濃い姿勢をとる事となる。)

過去半世紀以上に渡り、全世界にいろいろなタイプの医療制度が現われ、先進国の中でも、医療を国家先導型の仕事と考える福祉国家、労働者の権利と考える職域社会保障制度国家、民間企業先導型のビジネス・マネージド・ケア国家とさまざまな形態が試みられた。度重なる医療改革を経て、それぞれに良い点、反省点が見られてきた。

今後もこの自由な形態が存続するとすれば、保険者機能の強化と同時に、もう一つの医療財政基盤が必要となることは必至であり、そしてその為に、民間共済保険の役割が大きく期待される。

一般に民間共済保険は、競争原理を背景としたマネージド・ケアを推進する方向にある。 しかしフランスの民間共済保険は、社会的不公平を生むアメリカ型の皆国民健康保険制度無しでの私的保険市場オンリーではなく、充実した公的社会保障制度があった上で、その不足分を補足する私的二次保険である。
目的にあわせて、疾病のため、介護のために、共済保険、重複保険、補完保険、代替保険と種類を多くして消費者に選択肢を与えることにより、補足度も一般的なものから高度なものまで対応可能とする。また、慢性疾患者、身体障害者、先天性疾患者も除外なく加入できる非営利部門の商品開発も考慮されている。(公的社会保障制度が確実に機能している場合、これらの方々を対象としても民間保険会社の負うリスクは軽減される。)

フランスの公的医療保険改革不全に残された将来への解決策として、今この医療財政多元化論(広義の民営化)も、賛否両論、大いに語られている。